【事例】公示送達の現地調査(所有権の時効取得案件)

本件は、当事務所自体が原告代理人となって行った事案です。

1月某日 事件受任

受任した事件の概要は次のとおりです。

原告は、都内に一戸建てを持っていました。また、その一戸建ての隣接地に12㎡程度の小さな一筆が存在していました。

40年ほど前、原告はその小さな隣接地の所有者Aさんから、自宅の庭部分として使用する用途で、原告を買主、亡Aさんを売主として売買契約を締結し、売買代金の支払いも完了しました。

しかし、知り合い同士での契約だったため、しっかりと所有権移転登記を行わずに放置されていて、現在にいたるまで亡Aさん名義のままでした。また売買契約書などの証拠も紛失しており、所有権が原告に移転した事実を証明する手段もありませんでした。

2月某日 亡Aさんの相続人10人を相手に訴訟提起

亡Aさんの戸籍を調査したところ、昭和時代に亡くなっており、現在相続人が10人おりました。その為その10人全員を被告として、所有権移転登記を求める訴訟を提起することとなりました。

被告の数が多くなった時点で全員に送達出来ず公示送達や付郵便送達を利用する可能性が十分考えられたため、立証が困難な売買ではなく、取得時効を登記原因として主張することとしました。

3月7日 裁判所から送達不奏功の連絡が

当初からある程度予想はしていましたが、やはり全員に送達をすることは出来ず、裁判所から現地調査の指示がありました。

前もって送っていた普通郵便は届いているはず

いきなり見ず知らずの人に訴状を送るとびっくりされてしまうので、訴訟提起前にあらかじめ被告全員に手紙を送っていました。今回送達が不奏功であった被告へ送った手紙は返送されてこなかったので、少なくとも郵便配達員は本人が居住しているという認識をもって投函したと思われます。

3月10日杉並区某所での現地調査を実施

送達ができなかった被告の住所は、そもそもこちらで取得した戸籍の附票から判明したものでした。原告はその被告と一切面識がないためそれ以外の情報は一切わかりません。当然他の居所や就業場所なども調べようがないため、公示送達か付郵便送達を実施するための現地調査をすることとなりました。

住所は杉並区某所で、附票を確認する限り、木造アパートによくありそうな建物名の表記で、その102号室が調査対象地です。

最寄駅から徒歩15分くらいで行けそうな場所だったので、電車で行くことになりました。

スマホで地図を確認しながら、五反田の当事務所を出て約1時間半程度で現地に到着しました。時間は午後16時頃。建物は予想通り木造アパートで、おそらく築40年はゆうに経っていると思われる外観でした。面している道路は公道ではなく、いわゆるウラ道のようなもので人通りはかなり少ないです。

建物は2階建てで、見る限り各階に5つずつドアがありました。そうすると10世帯分の部屋があると思われるにもかかわらず建物からは人の声や生活音は一切聞こえてきません。

まずは目的の102号室のドアの前まで行きました。表札を確認したところ、プレートにはなんの表記もなく、空になっていました。表札に調査対象者と同じ姓の表示があればそこに居住している可能性がグッと高まる証拠としやすいのですが、空だとなにもわかりません。

建物自体に集合ポストはなく、郵便受けはそれぞれ各部屋のドアについているもののみのようでした。また対象の部屋の郵便受けを外側から見た限りでは、郵便物が挟まっていたり、外にはみ出したりはしていませんでした。ここまで確認した限りでは、本人が居住しているかどうかの手がかりは認められません。

ドアホンが鳴らない

ある程度玄関周りを確認したら、いざドアホンを押してみました。これで本人であっても、第三者であっても、誰かしらが出てきてくれれば、本人が居住しているかどうかを聞き取りことができます。

誰かが居てくれることを祈りながらドアホンを押してみると・・・音自体が鳴りませんでした。

少なくとも押した側からはチャイム音などは全く聞こえません。もしかしたら外側に聞こえていないだけで中では聞こえているかもしれないのでしばらく反応を待っていましたが、応答はなし。少し時間をおいて何度か鳴らしても同じでした。

両隣の部屋を訪ねるも・・

本人宅に応答がないとなると、次にあたるのは隣宅です。まずは103号室を訪ねて見ました。表札は同じく空で居住者がいるかどうかわからない雰囲気ですが、ひとまずドアホンを押してみる・・・がこちらも応答なしでした。

つづいて101号室を確認しました。ここにはどうやら人が住んでいる形跡があるのですが、玄関ドアになにやらあやしい張り紙がベタっと貼ってあります。

↑ドアにあった貼り紙

どういった事情なのかわかりませんが、変わった方が住んでいるかも知れず、聞き込みをすることで不要なトラブルを招く予感がしたので、101号室の方の聞き取りはやめておく事にしました。

管理会社の看板を発見

本人宅は応答がなく、隣宅の調査も難航してしまいました。現状わかっている情報からは、そこに本人が住んでいるとも、住んでいないとも、言い切れるまでの根拠はありません。

時間は16時ころなので、このまま夜になるのを待って再訪問をすべきか考えていたところ、建物自体の入口付近に管理会社の名前と電話番号が載っているプレートを発見しました。

個人情報に厳しい昨今なので、電話で問い合わせても調査対象者が住んでいるかどうかについて教えてくれることはないだろうと思いましたが、少しでもヒントを得られればと思い、電話をかけてみました。

意外にも有益な情報を得られた

管理会社には、まず突然の連絡を侘びてから、こちらの立場や事情を詳しく説明しました。その説明の中で、こちらで確認した住民票の異動が3年前であることを伝えたところ、非常に親切な担当の方で、

「現在その場所に〇〇さんという人が住んでいるかどうかを教えることはできませんが、102号室は現在入居者がいることは間違いなく、また少なくとも3年間は借主が変わったということはありません。それでお察し頂ければと思います」

というお返事をもらうことができました。

このことが事実であれば、こちらで確認した住民票の異動日から今に至るまで本人は変わらずそこに住んでいるということとが判明したことになります。そうすれば、付郵便送達が認められるかもしれません。

しかし、あくまで口頭上、しかも電話での確認に過ぎず、それ以外には普通郵便が返送されていないという程度の情報しかない状況で果たして裁判所が認めてくれるかどうかが問題でした。

書記官との打ち合わせ

上記一連の調査内容について裁判所の反応を聞きたかったので、担当書記官に事情を話したところ「裁判官に確認します」とのこと。

しばらくして折り返しの電話をもらい「ひとまず現時点での調査内容を報告書として提出してください」との事でした。

おそらく前向きに検討してもらえるということと判断し、早速調査報告書を作成し、付郵便送達の申立書とともに裁判所へ郵送をしました。

3月末頃、公示送達を実施

最終的に上記の申立書は認めてもらえました。

そして無事公示送達を実施することとなり、訴訟を進行することが出来ました。

↓本事件で作成した上申書、調査報告書

↑実際には上記以外に対象地の写真画像も添付しました。